桜子(さくらこ)と博正(ひろまさ)という高校2年生のカップルの未来の話。
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あれから、15年の年月が流れた。
桜子は、静岡市内の高校を卒業後に東京の大学に進学した。
博正は地元の静岡にある大学に進学したが、大学生になっても桜子とずっと付き合っていた。
桜子は大学で音楽や演劇などの舞台芸術を学び、東京でも多くの舞台で演奏して活躍していた。
将来音楽に関わる職を目指していた桜子だったが、その中でも次世代の子供達に音楽の素晴らしさを伝えていき、自身もより多くの音楽に触れたいと考え音楽の教師を志願した。
卒業後は地元の静岡市の採用試験に通り、市立中学校で音楽の教師になった。
子供の頃から多くの楽器に触れ合った経験を生かして、楽しく生徒が意欲的に学ぶ授業づくりに努めていった。
桜子は吹奏楽部の顧問として部員を率先して県大会や全国大会などに出場し、県や市の音楽部会ではかなり名を知られていた。
美しく才能ある女性教諭として同僚からも憧れの的だったが、桜子は高校時代からの恋人の博正とずっと関係が続いていた、
そして30才のとき桜子と博正と結婚し、多くの人が2人の幸せを喜んだ。
その1年後には、2人の第一子となる娘が生まれた。
桜子と博正の間に生まれた娘は莉音(りおん)と言い、桜子に似て可愛らしい女の子だ。
その3年後には第二子の男の子が生まれることになるのだが、その少し前の話。
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『細野』という表札のある郊外の新築の家。
薬指に指輪をした左手と包丁を握る右手。
32才になった桜子はセミロングくらいの長さのダークブラウンの髪、やや年を重ねた顔、同年代のママ友の中では細い方だが若い頃に比べるとふっくらしてきた体など、若くはない姿になってきていた。
桜子は朝食の準備をしながらも、傍には娘の莉音がいた。
莉音は優しく可愛らしい子であったが、母である桜子のそばを片時も離れなかった。
「莉音。ママはご飯の準備をしてるの。大人しく座ってて。」
そして、階段を下りる音がして夫の博正が降りてきた。
「おはよう。」
「パパ!もう少し早く起きてよ。仕事に遅れたら大変でしょ?」
「分かったよ。」
桜子も博正も不機嫌そうにしていた。
やはり夫婦になると、お互いに嫌なところが見えてくるものだった。
博正が車で会社に出勤すると、桜子は掃除や洗濯など仕事は山ほどある。
桜子は莉音を産んでからずっと育休中で、桜子は職場に復帰するかどうか考えていた。
だがそうすると莉音はどうするか保育園も簡単に見つかるのかなど、問題も多かった。
洗濯物を干したあと、桜子は車に莉音を乗せてショッピングモールに出かけた。
桜子の乗っている車はピンクを基調とした可愛らしいデザインで、後部座席にはぬいぐるみをいくつか積んでいた。
桜子は莉音とともにショッピングモールを回っていると、イベントホールに制服姿の中学生たちがいて吹奏楽の演奏をしていた。
桜子の吹き抜けの上から、しばらく演奏を眺めていた。
桜子も現役教師の頃は、色々な場所で指揮をして多くの演奏をしたものだった。
桜子は莉音を抱き、莉音にも演奏を見せていた。
そして演奏が終わると、観客の盛大な拍手が聞こえた。
桜子は、どことなく寂しそうにそれを眺めていると、
「ママみたい・・」
「え?莉音、なんて?」
「ママだ!」
莉音は指揮者である顧問のような女性を見て笑っていた。
帰り道、車を運転しながら桜子はずっと考えていた。
やっぱり学校に戻りたい、そしてこれは莉音のためでもあるんだ・・
桜子は家に帰ってから、博正にそのことを話すつもりだった。
博正が反対したとしても、桜子は自分の気持ちを打ち明けるつもりだった。
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その夜、博正が戻ってきたのは夜10時過ぎで莉音は寝たあとだった。
「ただいま。帰ったよ。」
「おかえりなさい。パパ。」
桜子は笑顔でスーツ姿の博正を出迎えた。
ここ最近は、機嫌悪そうな桜子だったため少し意外に思っていた。
そして博正が着替えている間、夕食の準備をした。
博正は黙々と桜子の用意した夕食を口にしていたが、桜子はそんな博正をずっと見ていた。
そして食べ終わるころ、
「桜子?さっきからどうしたんだ?」
「ちょっと話があるの。」
桜子の真剣な表情にまさか悪い知らせではないだろうなと不安になる博正。
桜子は決心したように
「私、次の4月から学校に戻ろうと思うの。勿論、莉音や家のことも心配だけどもう一度子供たちと音楽を学んだり、吹奏楽の演奏をしたり、楽しかったあの頃に戻りたくて・・」
桜子は少し目を潤ませながら話していた。
博正はしばらく黙っていたが、ふと桜子の方を見て・・。
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『あしはら刑事(55歳・♂)』さんからの投稿です
ありがとうございます。
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