高校生カップルの長い夏13（新たな出逢いと運命の悪戯）

（前回は「高校生カップルの長い夏12」を参照）

夏の昼下がり、人気のない山道をひたすらに進む軽自動車。

運転する男は、振り返らずひたすらに車を飛ばしていた。

男は一刻も早く山を離れるために急いでいた。

男は隆輝（りゅうき）という24才の男だ。

隆輝は、公には見せられない品物の運び屋の仕事をしていた。

この日も町で受け取ったアタッシュケースを依頼人に届けて帰る途中だった。

隆輝が運んだ荷物のことが明るみに出れば、隆輝も依頼人も間違いなく罪に問われる。

だが依頼人の計画はバッチリで、あとは隆輝が何事もなく家に帰り、このことを誰にも知られなければ全て順調に終わるはずだった。

山の中の見通しのいい道にきたとき、隆輝は少し急ごうとアクセルを踏んだ。

その直後、道沿いの森の中から制服姿の女の子が現れた！

女の子はよける訳でもなく、なぜか車の目の前に飛び出した。

「あ、危ねぇ！」

隆輝は急ブレーキを踏み、間一髪で女の子を轢かずに済んだ。

「何だよ！」

隆輝は車の中で独り言を言いながら女の子を見てさらに驚く。

制服姿の女の子は、ロープで縛られて猿ぐつわをされていた。

誘拐事件か何かだろうか？
女の子は車の前に立ちはだかっていたので、まず隆輝は運転席から降りた。

女の子は何かを訴えるように隆輝に近づいた。

よく見ると長い黒髪の可愛らしい顔の女の子だった。

隆輝は迷った。

この子に出会わなかったら計画は完璧だったのに。

（どうするか見捨てるか？でも車や俺の顔を見られてるしなぁ。

）
女の子は必死な顔で猿ぐつわの中から呻き、隆輝は「乗って。」

と言い、女の子の拘束を解いたりせずに後部座席に乗せた。

そして隆輝は車を発進させた。

後ろには縛られている女の子を乗せて走る隆輝。

隆輝は『まるで俺が誘拐犯みたいだ』と思いながらも、ひたすら車を運転していた。

隆輝はしばらく山道を走らせ、しばらくすると麓まで来た。

静岡市の郊外の市街地に入りしばらく走ると、隆輝が住むアパートに辿りついた。

隆輝はあたりをキョロキョロしながら、女の子を部屋に入れた。

隆輝は畳の上に縛られている女の子を座らせるとしばらく眺めた。

やはり割と可愛らしい子で、胸元の膨らみがいい感じだ。

制服は薄汚れていていて、髪が少し乱れ、体からは臭いがした。

女の子は長時間、何処かで監禁されていたのだろうか。

隆輝は女の子の目を見て低い声で

「猿ぐつわを外すけど、絶対に叫んだりするな。いいか？」

女の子は静かに頷いた。

隆輝は女の子の猿ぐつわを外した。

「君はなぜあそこにいた？」

「私、誘拐されて監禁されていたんです。」

「やはりそうか。犯人はどんな奴だ？」

「古川匠という同い年で同級生の男の子、あと大村という中年男性と・・」

「そうか、それで・・」

隆輝は女の子の話を一通り聞いていた。

彼女は、桜子という高校2年生の子だった。

こんな可愛い女の子を監禁して、酷い目に遭わせるなんて！
そう思う隆輝だったが・・

「お願いです。私を家まで帰してください。」

そう言われて急に青ざめる隆輝。

桜子を家に帰すと、隆輝は警察に事情聴取される。

隆輝があそこにいたことが知られれば、あの荷物を隆輝が運んだことが分かってしまう。

特に今回の仕事は、成功すれば大きな報酬、失敗すれば地獄を見る一か八かの取引だったのだ。

また咄嗟の判断とは言え、隆輝が桜子をここに連れてきた以上もう戻れないのだった。

隆輝は桜子を真剣な目で見て

「いいか。僕は君を助けたくても、そう簡単にできないんだ・・」

隆輝は全てを包み隠さず話した。

隆輝は運び屋であり、大事な取引の帰り道に桜子と偶然会い、ここに連れてきたことなど。

一通り話し、不安そうな顔になる桜子。

「私、どうすれば・・」

「とにかく、君はここで大人しくしていればそれでいい。」

隆輝はしばらく桜子の様子を伺ったあと、ロープをほどいた。

「汗をかいているだろう？風呂を使っていいから。」

「はい・・」

桜子は不安そうにしながらも風呂に向かった。

しばらくすると、シャワーを浴びる音が聞こえてきた。

少し心臓が高鳴る隆輝であったが、下心は全くなかった。

そのあと風呂から出てくる桜子。

下着はどうしようもないのでそのままだが、トレーナーやハーフパンツなど隆輝の物を貸した。

大きさはぶかぶかだったが、着る物がないよりはいい。

桜子が着ていた制服などは軽く洗って、外から見えない室内に干していた。

-END-

『あしはら刑事（45歳・♂）』さんからの投稿です

ありがとうございます。