美奈はクラス、いや学年の中でも特別だった。
京人形のような雰囲気にもかかわらず、目は黒目がちの二重。
小さめの口は形がよく、ニッコリ笑うと口角があがって綺麗な弧を描いた。
色白で透けるような肌。
頭も良く文系の中では10番以内に入っていたし、運動神経もよかった。
胸はけっこうあって身は細く、ヒップがキュッとあがってウェストのくびれもばっちり。
大人っぽい子でクラスのまとめ役でもあった。
決してしきりたがりってわけではなく、自然と皆が美奈の言うことや提案に納得してまとまるような感じだ。
彼女が年上年下にかかわらず告白の嵐にさらされていたのもうなずける。
けれど彼女は一向に彼を作ろうとはしなかった。
俺はと言えば、2年に入ってから背が高くなった位で、そう目立つような男じゃなかった。
体育も普通より上、身長もちょっと上、頭は理系の中で常に5番内に入っていたからそこそこの自信はあった。
3年の2学期も終わりに近づくと、クラス内ははっきり色分けされた。
推薦で決まってのんびりしているやつ。
一般試験組。
浪人覚悟のスローペース組。
俺は国公立しか行く気がなかったから必死組。
そんなある日、自習時間に渡り廊下に大田(幼稚園からの腐れ縁)から呼び出された。
何かと思えば、廊下の向こう側に美奈がいた。
色白の頬を真っ赤にして、これから一緒に帰って欲しいって。
これからって今日のこれからだと思って、そっけなく別にいいよって言ったら美奈が目にいっぱい涙を溜めて、
「アリガトウ」
って。
・・・・ひょっとしてこれって・・・・告られたのと同じか?
よくわからぬままにその日は一緒に帰り、翌日も、その翌日も・・・・。
皆に冷やかされるのが嫌で、HRが終わると誰よりも早く校舎を出ると美奈が慌てて追いかけてくる。
そんな毎日が日常になって、でも俺は嬉しい反面迷惑だなっていう気持ちもあった。
センターの日程上、俺は第一志望をたった7人しか合格者を出さない日程におくしかなかった。
第一志望に受かるには凄まじい競争率をかいくぐらなければいけない。
もう12年も前の話だ。
今と学生の数が違う。
有名私大の倍率は軒並み60倍以上もする世界。
恋どころか自分の勉強で手一杯頭一杯。
けど、密かに毎晩自分でコキながらオナペットにしてたのは美奈。
セックスしてる夢を見る、自分の下で喘いでいるのも美奈。
俺は多分、今美奈とやってしまったらサルになるだろうっていう予感があった。
そうなってしまえば受験どころではなくなる。
毎日努めて冷静になるように自分を叱咤激励し、ひたすらストイックに生きようとした。
それは美奈も同じ事を考えていたんだと思う。
美奈自身も受験生だったから。
ある日、並んで帰りながら
「寝つきが悪いんだ」
って美奈に言った。
そうすると、
「よく効くツボが手の甲にある」
って教えてくれた。
美奈は
「本当はこんなところじゃなくってもっと効くところがあるんだけど、外ではできないしね」
と意味深な事を言った。
俺がわざとわかっていない振りをすると、
「水谷君、きっと勉強どころじゃなくなっちゃうでしょ」
って。
俺、見透かされてるって思ってカーッときた。
ちょっと触れただけの美奈の手にもドキッとして、オナる時にはその指が自分のチンコを握っているのを想像している事も知ってるんじゃないのか。
キスだってしたくてしたくてたまらなくて、何度となく今やってしまおうかと思いながら、キスだけで済まなくなるのがわかっているからひたすら我慢しているのも知ってるんじゃないのか。
俺は握られてた手を振りほどいて、
「自分だけ大人ぶるな。弄んでるつもりか」
って言ってしまった。
しまった・・・・と思った時には美奈は長い睫を伏せて悲しそうな顔をして半泣きだった。
その顔を見てわかった。
美奈も俺に抱かれたがってる。
決めた。
俺は現役で志望校に受かって、美奈を思う存分抱いてやる。
かなりの精神力を要したが、俺達は正月が空け、本格的な受験シーズンに入っても結局キス一つしなかった。
美奈は関西の某有名大学にあっさり合格した。
倍率は新聞発表で66倍だったと思う。
卒業式も終わり、俺の第一志望の試験日が来た。
空港へ到着すると、美奈が出発ロビーに見送りに来ていた。
美奈はお守りだと言って俺に小さなハート型のマスコットみたいな物を持たせた。
美奈は小さな声で、
「本当はお守りって言って漫画みたいにキスしたいけどここじゃね・・・・」
って。
俺はたまらなくなって、隅っこに連れて行きキスしてしまったよ。
しながら、
「しまった。頭から離れなくなったらどうしよう」
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とは思ったけれど、衝動を抑えきれなかった。
美奈は真っ赤な顔をして見送ってくれた。
不思議と頭に残るどころか、かえって集中することが出来た。
長い間抑えていた衝動の一部を開放したせいだろうか。
そして後期7人の難関を俺はなんとかすり抜けた。
時間は残されていなかった。
俺は関東へ、美奈は関西へ。
お互いに転居や新生活の準備、友人との別れの時間などで、俺の3月中旬の合格発表後はゆっくり会う暇もなかった。
そして、俺は美奈に黙ってある一つの決断をしていた。
今から思っても最低の決断だ。
俺は関西の大学にも受かっていた。
国公立ではあったが、関東の大学に比べると若干各下だ。
俺は美奈よりも大学を選んだ。
その時は第一志望に合格した高揚感と開放感、そして、ありがちな大学を偏差値ランクのみで選ぶという単純な物だった。
入学する大学を決めた時点で、俺は何と言って美奈に説明したものかと悩んだ。
地元の新聞で国公立の合格者は名前が発表される。
美奈は俺が2つとも受かっているのを知っているに違いない。
そして、大田の彼女で美奈の友達でもある子に話してもらうようにした。
すぐに反応はあった。
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