高校2年の夏。
入部以来密かに憧れていた俺と同じ陸上部で同学年のユリは、陸上部と天文部を掛け持ちしていた。
運動部と文化部を掛け持つ奴は多くはないけどそれほど珍しいことではなかった。
ハイジャンプを専門とするユリは身長165cm、スレンダーで、少しだけ大きめなお尻の位置が高く足が長い。
ショートカットに小麦色に日焼けした小さい顔。
当時の彼女は今の小西真奈美に似ていたと思う。
同じ陸上部なので合宿や地方大会等で泊りがけで出かける機会は多かったけど、いつも皆と一緒で2人きりになれることなんて皆無。
練習後も彼女は他の女子部員と電車で帰宅。
俺は自転車でこれまた逆方向とチャンス無し。
天文にはまったく興味がなかったし、急に掛け持ちを始めたら変に思われかねない。
いまいち踏み切れないヘタレな俺は、周りに悟られないようにトラック競技の練習のインターバルの間、フィールドを駆けて翔ぶユリの姿だけをそっと見ていた。
ユリが天文部の3年と付き合っていると耳にしたのは、高1の秋季大会が終わった後。
先輩が彼女と映画を見に行ったときに偶然見かけたらしい。
もちろん女子部員は知っていたらしいが、相手が文化部ということであまり身近な話題ではなかったみたい。
(その後、ユリの彼は東京の大学に進学。遠距離恋愛なんだろうとは思っていたけど当時の俺には詳細不明)
俺もユリは可愛いから彼がいても当たり前だと思ったし、俺にも中学時代からの彼女がいた。
中学の1年下の後輩Aと付き合っていたけど、Aがそれ以上の行為を怖がるし相手が中学生だったこともあり、無茶も出来ずにキスと手と口による愛撫止まり。
Aも可愛くて卒業したらと約束していたので、密かにユリを思いつつもAを手放したくなかった俺は我慢していたが、このままだと浮気しかねないと半ば脅し、なんとか頼み込んでFまではしてもらっていた。
けれど、不幸はいつも浮かれてる奴の足元に忍び寄る。
高1の終わりAも卒業していよいよというとき、Aは同級生に喰われていた。
俺は童貞のまま高校2年の春を迎えた。
うっとうしい梅雨のころ、昼飯を食った後に購買へジュースを買いに行く途中で、同じクラスで天文部のNが別のクラスの天文部員Hと話しているところに遭遇。
「合宿」と言う単語が聞こえてきて気になった俺は何気に挨拶を交わして「天文部も合宿とかあんの?」と聞くと、流星群観測を兼ねて1週間、合宿といっても夕方から学校に集まり屋上で観測して朝には帰宅、夕方になったらまた学校へという感じだとNが答えた。
恒例行事だが強制参加ではないので集まりが悪いけど、今年部長になった先輩の家が割烹料理屋で、豪勢な弁当の差し入れがあるということもあって今年は全員参加らしい。
流星群も豪華弁当も興味がなかったけどユリも参加するのかと思いもう少し突っ込んで聞いてみた。
「流星群って凄いの?」とか「観測ってどうやるの?」とさも興味ありげに聞くと、NもHも喋る喋る。
2人の話の大半は聞き流していたんだけど、屋上での流星観測方法の話は俺のスターターに火を点けた。
学校の屋上で、4人が頭を中心に足を東西南北に向け仰向けに寝そべり、見えた流星をカウンターで数えて行くという方法。
学校の屋上は東西に長い長方形で視界が重ならないように離れて寝る。
明るいと観測にならないので灯りは無し。
1~2時間ごとに交代するときの移動にはペンライトを使用する。
観測が終わったら記録を付けて次の交代時間まで部室等で休息ということだった。
休息時間は校内から出なければ良いらしいが、大概は部室で弁当や菓子を食べたり視聴覚室で仮眠してるそうだ。
顧問で物理化学のO先生が監督するが、マニアックなカメラの趣味があるそうで、少し離れたところにある狭いけどより高い屋上で流星の写真を部長らと交代で撮影するらしい。
(それ以外は理科準備室で呑んでるみたい)
俺は観測方法のほうに惹かれていたんだけど、「1時間に数十個の流星なんて見たこと無いな。そんな綺麗なら一度見てみたいな」
と心にもないことを言うと、「1人くらい平気だから見にきなよ。」
「同じ陸上部のT(ユリの苗字)もいるから平気でしょ。」とNもHも誘ってきた。
心の中の俺はゴールテープを切ったときのように歓喜していたがまだレースは始まったばかり、「ありがとう、考えとくからまた声かけて。」と、その場を後にした。
県大会も敗退して夏休みに入る直前、練習後にユリが声を掛けてきた。
片付けの最後に皆でハイジャンプのマットを倉庫に運び込んで手を洗いに移動しかけたときに、隣でマットを持っていたユリが、
「M君、流星群見に来るんだって?」と聞いてきた。
NとHが言っていたそうだ。
「ん~午前中練習あるしな~」と急な話の振りにドキドキしながら俺が答えると、
「午後寝られるし、観測後は仮眠できるから大丈夫だよ。」
「私は電車だから始発で一度家に帰るけど、M君は家近いし天文部員じゃないから途中で来て帰ってもいいんだよ。」
思いがけないユリの誘いに戸惑っているといつの間にか倉庫には2人だけになっていた。
俺「ユリは去年も観測したの?」
ユリ「したよ。凄く綺麗だった。」
俺「へ~そうなんだ。ぜんぜん知らなかったよ。」
ユリ「だって話しても皆興味ないでしょ。私は中学でも掛け持ちだったんだ。」
俺「星、好きなの?」
ユリ「うん、大好き。M君は好き?」
誰もいなくなった薄暗い倉庫でマットに隣同士に座っていた。
憧れていたユリから意味はまったく違うけど「M君は好き?」と聞かれて俺はもう心臓が破裂しそうで、たぶんこのままでいると押し倒しちゃいそうだし、赤くなってきているであろう自分の顔を見られたくなかったから、両手を振り上げて「ふ~」て感じの疲れたような声を出しながら「バフッ」とマットに背中から倒れて掌で顔を擦る振りをした。
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俺「考えたことないし、流星群とか見たこと無いしな~」
ユリ「じゃあ、見てみようよ。好きになるかもよ。」
俺「ん~Nもいるし、行ってみようかな。」
ユリ「そうしなよ。ピークの日だけでもいいからさあ。それにさ、内緒だけどちょっとだけ呑めるんだよ。」
ユリは片肘を突いて上体を俺のほうに捻るようにして後ろに倒すと、俺のほうに顔を寄せつつ空いている手でコップを煽るような真似をしながら囁いた。
彼女の汗の匂いがした。
今までもストレッチとかで手をつないだり腕を組んだり背中を合わせたり、肩や背中や膝を押したりと触れたり匂いを感じたりする機会は幾らでもあったんだけど、すぐ傍にある少し逆光気味になったユリの顔と囁く声がエロティックで、漂ってくるユリの匂いに俺の興奮も最高潮。
スパイクからアップシューズに履き替えてダウンに移るときに飲んだ、スポーツドリンクの香りが吐息とともに伝わってきて、俺の視線はユリの少し開いた唇に釘付け。
ユリの顔がすぐ傍にあった。
唇が光ってる。
「私、強いんだよーお酒。アハッ」
ユリはその空いた手で俺の太ももをパチンと叩くと可愛く笑った。
俺はサポーターパンツを押し上げ膨らみつつあるトランクスを気づかれないように上に上げた下肢を振り下ろして勢いよく起き上がった。
そのまま立ち上り彼女のほうを振り返らずに歩き出しながら「それはよーく知ってる。楽しみにしてるわ。」と応え足早に洗い場へと向かった。
その年の年末年始休み、OBの家で催された焼肉パーティーで見た少し赤らんだユリの顔を思い出して益々いきり立つ下半身を宥めながら、
「楽しみだねー・・・って待ってよー」
と近寄るユリから逃げるように洗い場へ向かった。
今ひとつ勇気の無い俺。
その夜は後悔の嵐の中、ユリを思いながら一人慰めていた。
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