急に激しい雨がふりだし、傘をもたない僕は辺りをみまわし、傍にあった民家の軒先にとっさに駆け込みました。ちょうどそこへ、同じように雨を避けてとびこんできた女性がいました。
「すごい雨ですね」
気さくに声をかけてきた女性は、年齢は40なかばかあるいはもうちょっとといったところで、ウエーブのかかった髪が濡れて顔に絡みついています。いま彼女がその髪を額の上にかきあげました。小作りの、なかなかの美人でした。
「天気予報では、晴れのはずだったんだけどな」
「最近は、あてにならないわね」
二人は顔をみあわせ笑いました。
と、いきなりビカリと光って、ごろごろときました。
「ひやあ」
目にみえて彼女の顔色が変わりました。
「怖いみたいですね」
「怖いなんてもんじゃ、きゃあ」
とまた、暗い空を切り裂く稲光に、彼女は身をすくませました。
そのあまりの恐がりように、僕も同情をおぼえて、後ろをふりかえり、家に人がいないかどうか確かめようとしました。いまわかったのですが、どうもこの家は空き家のようで、ガスメーターは使用中止になっています。
稲光も雷も、ますます激しくなっていく気配で、彼女はすっかり怯えきって、僕の肩にしがみついていました。
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「家の裏にいけそうだから、ちょっとはいってみましょう」
僕は彼女をつれて、家の横手をとおり、屋根のせりだした裏側にまわりました。
そこは物干し場のようで、上には波板がおおい、すくなくとも雨は避けられそうです。
と、いきなり、すくそばに雷が落ち、彼女はしゃにむに僕に抱きついてきました。彼女の胸のふくらみが、僕の胸にまともにおしつけられ、僕はちょっと欲情をかきたてられながらも、彼女の髪をなだめるようになでつけていました。
「ここから、はいれそうだ」
なにげなく裏口の戸に手をかけると、もともと鍵が壊れていたようで、すんなりそれは開きました。
入りこんだ廊下にはうっすら埃がつもり、いたるところに蜘蛛の巣も張っていましたが、彼女が目に見えてほっとするのを見て、僕も安心しました。
「ごめんなさい。あたしほんとに雷が苦手なんです」
いっているあいだにもまた、家屋をゆるがすような雷鳴に、彼女はすくみあがりました。
「ちょっと、部屋にはいってみましょう」
僕はドアをあけ、キッチンらしいフロアの部屋に足をふみいれました。
そのとき窓の外が真っ白に光り、物凄い雷鳴がとどろいた瞬間、彼女が僕にとびついてきて、唇を僕の口におしつけてきました。僕もまた彼女をだきしめ、彼女の舌に自分の舌をからみあわせていました。
「ここではなんだから、ほかの部屋に」
僕は彼女をつれて、ほかの部屋をみまわって歩き、二階に比較的畳のきれいな部屋をみつけてそこに入りました。
二人が裸の体を離し、まだ生乾きの衣服を再びまとったときには、雷もおさまり、雨も小やみになっていました。
「もう出ても、大丈夫ですよ」
「ありがとうございました」
僕たちは家の外に出ました。そして、目をみかわしたものの、何も言わずに立ち去りかける彼女を、僕は呼びとめました。こちらを振り返った彼女の顔に一瞬、何かを期待するような表情がよぎりました。
僕は彼女の髪についた蜘蛛の巣をそっと払ってやりました。彼女は笑って、こんどこそ本当に立ち去っていきました。
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