仲良くなった嬢が店を辞めた。
しかし、店の独特な臭いと雰囲気が気に入っていたので、とりあえず、また店には行ってみようと思っていた。
ある日、予約を取らずに店へ行くと、店員に「新しい子が入ったんですけど、どう?」と紹介されたので指名した。
やがて、新人の嬢が現れ部屋へ案内されたのだが、その嬢、どことなく暗い。
根暗というわけではなく、無理に明るく振る舞っているような妙な暗さがあった。
非常に印象も薄く、化粧は上手いが、引きつけられるものが感じられなかった。
どうにかコトが終了し、帰り際、嬢は恒例のサービスで私を抱きしめた。
私も嬢の背中に腕を回し抱きしめていたのだが、この嬢、いつまで経っても離れようとしない。
おかしいなぁと思って我慢していたら、私の胸の中で小さな声で嬢がつぶやいた。
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「家の匂いがする・・・。」
私は、まさに雷が堕ちたような衝撃を受け、そのまま、立ち尽くしていた。
それから、どれ位、抱きあっていただろうか。
やがて、嬢は私から離れ、少し充血した瞳で私を見つめ「ありがとう」と言って無理な作り笑顔をした。
私は微笑むのが精一杯で、嬢に言葉をかけることが出来なかった。
その日は、自分でも訳が分からず部屋に帰ってから何となく切なくなり、もう、嬢には合わない方が良いのではないか、と、そんな事を思った。
しかし1週間もすると嬢の事が気になり出して、店に予約の電話を入れたところ「○○ちゃんは、ずっと休みなんですよ」と店員に言われた。
それから1週間後、また予約の電話をいれたところ、嬢が復帰しているということで、急いで店に向かった。
待合室で待っていると、元気な声が聞こえた。
嬢だった。
2度目の客なのに、私を覚えていたようだ。
しかも、あの時とは、まるで別人のように明るい笑顔で、私を出迎えてくれた。
二人きりになると、嬢は「この前はありがとう。」と言った。
私がキョトンとしていると、少しうつむき加減で恥ずかしそうに
「あの後、久しぶりに田舎に帰ったの。もう何年ぶりかな。家出して。みんな怒っていると思ったんだけど、すごく喜んでくれてさ、全然変わらないの。犬は大きくなってて、ビックリしたけどね。」と言った。
そして「今日はサービスしちゃうから、よろしくね」と元気な笑顔を見せた。
別に私が何をしたというわけでもない。
でも、嬢の笑顔を見た時、私は、自分の心の中に不思議な満足感のようなものがある気がした。
–END–
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